コワーキングスペースが優先すべきはコミュニティよりも作業場としてのクオリティ
今回の記事は、リレーブログ「コワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダー Advent Calendar 2017」の19日目として書いています。
CASE Shinjukuの森下ことみさんの記事よりバトンを受け取りました。
ヨカラボ天神ですが、早いもので2014年1月に最初の場所にオープンしてからもうすぐで4年、現在の場所に移転してからは3年となります。
今回は約4年運営して感じたことの一つである「コワーキングスペースが優先すべきはコミュニティよりも作業場としてのクオリティ」というテーマで記事を書きます。
長文なので先に先に要点だけまとめますと・・・。
・コワーキング利用者が一番求めているのは快適な作業場
・作業場としてのクオリティ向上において重要なのはハード面の充実
・利用者同士のコミュニティ形成の第一歩はスタッフと利用者の交流
以上!長文読めねえ奴はこれだけ覚えてとっとと去っちまいな!ヽ(`Д´)ノ
■利用者の一番の目的は作業をすること
以前の記事でのアンケート結果にもあるように、コワーキングスペース利用者の主な目的は、「仕事」や「勉強」をする作業場としての利用です。ただし、一般的に利用者同士の交流が期待できるということがコワーキングスペースの特徴として謳われているため、運営者としてはコミュニティ形成について優先して取り組みがちです。
しかし、以前の記事で紹介したアンケート結果にもあるように「交流」を目的としている利用者は全体の約10%にとどまります。このアンケートは複数回答可としていますので、交流だけが主な目的の利用者だけではなく、仕事&交流、勉強&交流といったついでに交流したいレベルの利用者を含んでいます。
ぶっちゃけ人脈作りや交流が目的であれば、自分の目的に合ったイベントの懇親会等に参加しまくる方がよっぽど効率が良いはずです。
むしろ逆に交流は一切求めておらず、ただ集中して作業がしたいという利用者も少なくありません。実際、他の利用者に一度話しかけられただけで退会したという極端な利用者もいらっしゃいました。
でも交流が目的でないのであれば自宅やホテルといった個室で作業すれば良いのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかしコワーキングスペースを利用される層というのは、主に以下の性質があると考えています。
・自宅やホテルだと色々な誘惑に負けて作業に集中できない。
・適度に人の気配や雑音がある環境の方が良い。
・仕事や勉強を頑張っている人が周りにいる環境の方がモチベーションが上がる。
・基本作業に集中したいが、たまには人と交流したい。
上記のようなガンガン交流をしたいわけでも全く交流をしたくないわけでもないという絶妙な性質を持った層がコワーキングスペースのメインターゲットということです。
重要なのは、交流したい度合いは人それぞれでも「快適に作業をしたい」ということは利用者全員に共通する望みだということです。
ですのでコワーキングスペース運営者がまず取り組むべきは「コミュニティ形成」ではなく「作業場としてのクオリティ向上」だと私は考えます。
■作業場としてのクオリティとは?
作業場として利用者に求められているクオリティについて、優先順位の高いものから以下に記します。1位)デスクスペース、椅子
コワーキングスペースというのは、最低限ネット/電源/机/椅子さえあれば始めることが可能です。内装工事をせずに会議用長テーブルとパイプ椅子を置いただけの最小限の初期投資で始めたようなスペースも見たことがあります。しかしそのようなクオリティではわざわざ足を運んでお金を出して利用してもらうのは難しいでしょう。利用者が一番長く接するのは机と椅子です。充分なデスクスペースを確保する、なるべく座り心地の良い椅子にする等、机と椅子にはある程度お金をかけるべきと考えます。
ヨカラボ天神では、運営後も利用客増加に伴い広い作業スペースを使えるデスクを増設したり、当初の想定とは異なりコワーキング利用者が増えたラボエリアの椅子を座り心地の良い椅子に変更したりといったことを行なっています。
【ラボエリアの椅子の種類を変えました!】
— ヨカラボ天神 (@yokalab) 2017年10月5日
丸椅子から、背もたれが大きくて座り心地の良い椅子への変更です(*^^*)
ラボエリアがイベントで貸切になる時以外はコワーキングの席としてご利用いただけますので、ぜひお試しください♪ pic.twitter.com/A0T5ZkzTSn
2位)レイアウト/空間
利用者の導線や空間の余裕が考えられたレイアウトになっているかということが重要です。例えば同じデスクスペースであっても隣や前後の席との距離が近すぎると窮屈に感じてしまい顧客満足度は落ちます。実際、ヨカラボ天神における移転前と移転後の大きな違いはレイアウトと空間ですが、それだけで利用者が急増しました。これまで私が見た中で、デザイン優先で利用者の立場になって考えられていないレイアウトのスペースがいくつかありました。こういったレイアウトミスはコワーキングスペースという業態を理解していない内装業者にレイアウト制作まで任せっきりにしてまった場合に良く起こりがちです。
私はレイアウト案に関しては、オーナーや店長等、コワーキングスペースとその利用者について理解している人間が行うことを推奨しています。現在のヨカラボ天神のレイアウトはほぼ全て私が担当しました。
3位)ネット、電源
ネットはWiFiのみでも問題ありませんが、無線だけだと不安定な場合があるので、有線が使える席を用意した方が顧客満足度は上がります。電源コンセントを全席に用意することは必須と考えますので電源を使えない席があるのは論外ですし、複数席で共通等も他利用者に気を遣って使いづらいため避けた方が賢明です。
4位)スタッフの対応
スタッフ対応のレベルが高いに越したことはないのはもちろんのこと、スタッフが受付等のスペース内に常駐していて、気軽に話しかけられる環境にあるかということも重要です。例えば居酒屋であれば、私は料理がそこそこ美味しかったとしても、店員が常に近くにおらず、かつ呼び出しボタンもなく、毎回注文の度に大声で店員を呼ばなければならないようなお店だとまずリピートはしませんが、そんな感じです。
5位)立地
店舗自体へのアクセスの良さはもちろんのこと、打ち合わせの合間に利用する出張者のことを考慮すれば、店舗からそのエリアの主要都市へのアクセスが良いに越したことはありません。6位)内装デザイン
内装デザインがオシャレな方が、当然利用者のモチベーションが上がります。しかし優先順位は低いのでお金に余裕がなければ最低限小奇麗なデザインであれば充分でしょう。優先順位として1,2,3位は僅差です。
上記のように、ほとんどがハード面となっています(4位のみソフト面ですがスタッフを常駐させるということに関してはハード面?)。快適な作業場としてのクオリティ向上においてはハード面の充実が重要です。
これは最初の店造り時に間違うと後からのリカバリーが難しく、かつコストがかかってしまうため、内装施工前に充分に検討する必要があると考えます。
■コミュニティ形成にも取り組みたい場合
上記に共感していただいたとしても「交流を求めている利用者は存在する以上、作業場としてのクオリティ向上と並行して利用者同士のコミュニティ形成にも取り組みたい。」と思われる運営者もいらっしゃるでしょう。そういう場合にまず取り組むことは「スタッフと利用者の交流」です。最終的には「利用者同士の交流」が目的だとしても、まずはスタッフが利用者と仲良くなることが先です。まずは入退出時に一声かけるレベルからで良いと思います。スタッフと利用者が仲良くなって話をしていればその話題に入りたい他の利用者の方より話しかけてくることもあるでしょうし、スタッフが利用者の素性を把握できれば他の利用者とのマッチングがやりやすくなり、結果的に利用者同士の交流に繋がるはずです。
福岡市ではここ最近大型コワーキングスペースが複数でき、大名小学校跡地にできた行政が関わっている「Fukuoka Growth Next」という業態が被るスタートアップ施設もできました。「Fukuoka Growth Next」にいたっては場所がヨカラボ天神の目と鼻の先くらい近くな上に話題性充分なため度々メディアに取り上げられています。にも関わらず利用者がライバル店に取られて減るどころか右肩上がりで増え続けています。
これはコワーキングスペース自体の認知度が増え市場が拡がったことに加え、「作業場としてのクオリティ向上」に重きを置いて取り組んだ結果であると自負しております。
その反面、「コミュニティ形成」のための取り組みはまだまだ不十分ですので、来年以降はそちらにも取り組んでいけたらと考えています。
次のリレーブログのご担当は、シェア×コワーキング 神楽坂クロススタジオの石田康子さんです。